第九回|水無月に寄せて ― 雨の恵み

前編
緑の色は日ごとに濃さを増し、木々は幾重ものしげりを見せながら、やがて雨模様の日々へと移り変わっていきます。
梅雨は、アジアの季節風地帯に特有の気象現象です。長く続く雨は時に煩わしく感じられることもありますが、その恵みがあったからこそ、日本では稲作が発達し、「瑞穂の国」と称される豊かな文化が育まれました。
しとしとと降る雨の音は、どこか柔らかく、私たちに静かに語りかけてくれるようです。
六月の終わりになると、和菓子屋の店先には「水無月」が並び始めます。
その昔、冷凍技術のない時代、氷は貴族だけが口にできる大変な贅沢品でした。宮中では夏の暑気払いのために氷が用いられましたが、庶民には手の届かないものでした。
そこで人々は、三角形の菓子を氷に見立て、その上に小豆をのせた「水無月」をいただくことで、暑気払いと無病息災を願ったのです。小豆には古来より邪気を払う力があると考えられていました。
六月の雨とともに受け継がれてきた、先人たちの知恵と祈り。
そこには、自然と共に生きてきた日本人の心が映し出されています。

(後編へ続く)
