素敵な一期一会とともに、「ときはなち」を感じる

日本抹茶協会のエグゼクティブ・アドバイザーの金子 慶子さん。

幼少期より茶道を学び、現在は裏千家 准教授としても活躍されている金子さんに、抹茶業界や“ときはなち”についてお伺いました。

抹茶にはどのような歴史がありますか?

お茶文化の伝来と発展は平安時代末に中国の宋から帰国した僧侶栄西が日本に伝えたことがきっかけです。栄西は茶の文化や茶の実をもち帰り、これが日本でお茶文化が発展する基盤となりました。

生のお茶の葉を蒸して揉まずに乾燥させたものを碾茶(てんちゃ)といい、これを石臼で粉末状に挽くことでお抹茶ができます。 お抹茶をいただく文化や歴史は茶道に深く根ざしています。一服のお茶をいただくだけでなく心の清らかさや礼節を大切にし、季節感や精神性を尊重することが重要視されています。同時に抹茶を使ったドリンクやスイーツなどがバラエティー豊かに世界中で人気を博し気軽に楽しめるカジュアルな一面も広がっています。この多彩な魅力が抹茶文化を広く楽しませています。

抹茶との出会いはどのようなものでしたか?

私がお抹茶と出会ったのは、祖母からでした。茶道のお稽古とは別にお抹茶が大好きになった理由はやはり圧倒的な美味しさと季節の和菓子との調和でした。日常と非日常の空間を行ったり来たりしながら豊かで素敵なひとときとが愉しめるのは幸せな時間です。

また、同じ手順であっても、お抹茶の味が微妙に異なることがあるという感覚も、お茶の奥深さや繊細さを感じさせてくれるものです。一碗に込められた手間や心遣いが、日常に彩りを添える素敵な習慣になっています。

茶道や業界全体についてどのように感じられていますか?

お抹茶をいただくと言うと正座をして御召し物を着て、かしこまった様子を想像されるかもしれません。茶道は初めは独自の儀式があり敷居が高い印象を持ち合わせているのでしょう。

しかしながら、慣れてくると実践を通じてその背後にある豊かな文化や美意識に触れ共感することが出来ると思います。

スポーツのルールを知ると、より興味を持って学び楽しめるのと同じで、茶の湯の奥深さやお抹茶の美味しさを理解してもらうには、ほんの少しのエッセンスを知ってもらえたら愉しめる視点が広がると思います。伝統的なお茶の文化を尊重しつつ、気楽に楽しむコンセプトを追求し、しかしながらお抹茶の品質は損なわないことも大切かと思います。

多くの人にお茶の楽しみ方や学びを広く共有できることは新たな価値を生み出せるものかもしれません。 茶道を学ぶことは礼儀作法だけでなく、どんな状況にも動じない心や気持ちのゆとりを得る手段で美しい所作やお作法、そして誠実な精神性や美意識を通じて、個人の成長だけでなく社会にも良い影響をもたらす貴重な文化です。世界平和や社会貢献、実践にも繋がる素晴らしい価値観が、学びの中に詰まっていると信じています。

金子さんが描く「ときはなち」は?

この言葉を伺った時に、いい響きだなぁと鮮明に覚えております。日常でも非日常でもいい、かっこつけず、良い人ぶらず、感情を解放できたら素晴らしいですね。自分を大切にするひとときが、もっとあっても良いんだなとも感じました。

私が「ときはなち」を感じる瞬間は、やはり素敵な一期一会を体感したときでしょうか。良い人とのご縁は何にもかえ難く嬉しいですね。

お稽古でもいつも同じお仲間と同じことをしていても得難い感覚を感じることがあります。 時に安心感であり繰り返しすることへの美学、心地よい一体感ではないでしょうか。一碗を通じてこうした気持ちになるのは単に経験からだけでなく、「ときはなち」の瞬間がすでに生まれているのかもしれません。

また「ときはなち」は人だけでなく、お気に入りの場所、愛着のあるもの、書籍、音楽などあらゆるシーンでの可能性が広がります。さらに一人ではなく家族、友人,恋人はもちろんの事「ときはなち」の瞬間を共有出来るのも素晴らしいなと想像を膨らませております。人間愛の大切さ、深い信頼関係や味わいぶかい生き方を育む瞬間をいつでも大事にしたいと改めて感じます。

私も素直な気持ちで「ときはなち」の瞬間を見つめ充実感と喜びを共にし、これからの未来を楽しみたいとおります。

抹茶が世界へ広がることについて、どのように感じられていますか?

コーヒーや紅茶は気楽にカフェでいただけますが、お抹茶は他の飲み物と比較して、気軽に手軽に楽しむことが難しいと感じられることがあります。特に、本格的なお抹茶の点て方や茶道の作法を理解することは学びが必要です。しかし、近年ではカジュアルな形で提供される抹茶ドリンクやお抹茶入りのスイーツが増え、気軽に楽しむ機会が広がっています。

海外ではお抹茶が「スーパーフード」として認知されていることは確かでオーガニックのお抹茶は大変人気があります。抗酸化物質やアミノ酸、ビタミンが豊富で、健康に良い影響を与えるとされているため、健康志向の人々にとって、お抹茶は特に価値がある飲み物と見なされています。

これはSDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、健康と環境の両面でポジティブな影響をもたらす取り組みと関連しているのではないでしょうか。

本物思考のお抹茶は、オーガニックであるだけでなく、細心の注意を払って製造され、伝統的な製法に基づいていることが重要かと思います。ミルクや甘さで味を誤魔化すのではなく、茶葉本来の風味や香りを楽しむことが大切だと感じています。本物のお抹茶はその土地の気候や栽培方法、製造過程が反映され、茶の湯の世界でもその真髄が重んじられているように感じます。

茶の湯の持つ精神性も魅力が詰まっていますが、お抹茶を極々普通に飲む感覚が日本から発信出来たらいいなと思っています。 世界中の飲食店はもちろん、空港やホテル、学校、美術館、さらには抹茶イベントの開催など、あらゆる場所でお抹茶が手軽に楽しまれる日が訪れることがわたしの夢です。